◆ はじめに
 「ナンクロ」というのは,「同じ番号のマスには同じ文字が入る」ということをルールにしたクロスワードパズルです。入る文字が「かな」の場合には「かなナンクロ」,漢字の場合には「漢字ナンクロ」と呼ばれますが,このサイトで紹介するのは「英語ナンクロ」,つまり英語の単語を縦横に並べてクロスワードを完成させるパズルです。

 毎週1つずつ,オリジナルの「英語ナンクロ」を紹介しています。

◆ まずは例題から
 このサイトで紹介する「英語ナンクロ」がどのようなものなのかを知っていただくために,ひとつ例題に取り組んでいただくこととしましょう。次の《例題の表示》の部分をクリックすると pdf ファイルで例題を表示できます(注1)。これをプリントアウトして,手元に置いてください。

《例題の表示》

(注1) pdf ファイルを見るには,Adobe Reader が必要です。Adobe Reader がコンピュータにインストールされていない場合には,次のロゴマークをクリックして,ダウンロードのページに飛んでください(無料でダウンロードできます)。

 この「例題」を見ると,黒マス(文字の入らない部分)以外にはすべて数字が記入されています。同じ数字のマスには同じ文字が入ります。この 11×11 マスの正方形の部分を「パズル面」と呼ぶことにしましょう。また,パズル面の下には Number,Count,Letter の3行からなる部分があります。これを「チェック欄」と呼ぶことにします。
 チェック欄1行目の Number は,パズル面の各マスの番号に対応しています。2行目の Count は,パズル面の各マスの番号がそれぞれ何か所あるかをカウントしたものです。3行目の Letter は,空欄になっています。

 これが問題のすべてです。これ以外には何のヒントもありません。一体これをどうやって解くのでしょうか。

◆ 手がかりを探す
 この「英語ナンクロ」には,一見したところ何の手がかりもないように思えます。ところが,《使用する単語が英語である》というこの点にこそ,実はいろいろな手がかりが隠されているのです。

 次のような調査をしてみました。まず,標準的といわれる英単語を 10,000 語ほど選び,これらの英単語を構成しているアルファベットをすべてバラバラにして,a 〜 z までの文字が全部で何回使用されているかをカウントしてみました。その頻度を計算して,最も多く使用されている文字 e から順に並べたものが表1です。

表1:英単語全体の中で使用されている文字の頻度
文字ei,a,r,t,no,s,l,cu,d,p,m,h,g,yb,f,v,w,k,x,z,q,j
頻度(%)12.08.4〜7.16.5〜4.63.5〜2.11.8以下

 この表に示されているように,英単語の中に占めるアルファベットの使用頻度にはそれぞれのアルファベットごとに大きな違いがあり,このことが「英語ナンクロ」を解く際の力強い手がかりになるのです。 ここでは,単語全体の中では e が最も多く使用されていることを覚えておいてください。

 次に,単語の末尾に使用されているアルファベットを調べてみました。その結果が表2です。実に 20%以上の英単語で末尾に e が使用されているのです。また,単語全体の中では使用頻度が大きい a,o,i は,単語の末尾にはほとんど使用されていないことがわかりました。

表2:英単語の末尾に使用されている文字の頻度
文字eytnr・・・aoi
頻度(%)22.412.111.69.78.8・・・0.860.720.10

 ここでは,単語の末尾には e が最も多く使用されていることと,単語全体では使用頻度の大きい a が,単語の末尾にはほとんど使用されていないことを覚えておいてください。

◆ 解法(第1段階)
 では,さっそく例題に取り組んでみましょう。「英語ナンクロ」を解く手がかりの1つめは,上述の《単語全体の中では e が最も多く使用されている》ということです。この「単語全体」というところを「パズル面全体」と置き換えてみればどうでしょうか。つまり,パズル面の中でも最も多く使用されている文字は E である可能性が高いと考えるのです。
 そこで注目していただきたいのが,チェック欄の Count の数値です。この値は,パズル面の各マスの番号がそれぞれ何か所あるかをカウントしたものです。皆さんにいちいち数えていただく手間を省くために,この欄を設けています。
 Count の値が最も大きい番号は[3]と[8]で,その値はいずれも13となっています。つまり,パズル面全体の中で13か所にも使用されているということになり,したがって,この例題では番号[3]か[8]のマスが E になる可能性が最も高いと考えられるわけです。

 次の手がかりは,上述の《単語の末尾には e が最も多く使用されている》ことと,《単語全体では使用頻度の大きい a が,単語の末尾にはほとんど使用されていない》ことです。そこで,番号[3]と[8]が単語の末尾の位置にそれぞれ何か所ずつ使用されているかを数えてみてください。番号[3]は,横方向の単語の末尾に2か所使用されているだけです(右から4列目・下から3行目の[3]と,右から1列目・下から2行目の[3])。一方,番号[8]は,横方向の単語の末尾に3か所,縦方向の単語の末尾に4か所あります(この場合,上から3行目・右から4列目の[8]は,縦方向の単語の末尾であると同時に横方向の単語の末尾にもなっています)。

 つまり,番号[8]はパズル面全体で13か所にも使用されている上,7つの単語の末尾に使用されているわけですから,このマスは E ではないかと考えるのです。また,番号[3]は,同じく13か所にも使用されていながら単語の末尾には2か所しかありませんから,このマスは A ではないかと考えるのです。

◆ 解法(第2段階)
 次に,約10,000個の標準的とされる英単語について,e の直前・直後に使用されているアルファベットの頻度を調べてみると,表3のようになりました。

表3:英単語全体の中で,e の直前・直後に使用されている文字の頻度
文字パターン retelede/erenesea
頻度(%) 13.611.89.87.2/ 21.616.08.97.3

 この表3を見てわかるように,e の直前に使用されている文字は r が最も多く,e の直後に使用されている文字もまた r が最も多いのです。つまり,e の直前・直後に使用されているアルファベットは,r が断然多いのです。
 また,e と a の前後関係についても重要なことがわかりました。表3にあるように e の直後に a はわりとよく見られるのですが,e の直前に a が位置することはほとんどないということです。

 これらの調査結果を,例題に適用してみましょう。上記の「解法(第1段階)」のところで,番号[8]のマスが E ,[3]のマスが A ではないかと考えました。この推察が正しければ,「 E の直前には A がほとんどない」つまり「番号[8]の直前には番号[3]がほとんどない」ことが成り立つはずです。実際,例題のパズル面には,[3][8]という並びのマスは1か所もありません。
 実は,番号[10]と[12]の Count がともに10で,しかもこれらの番号が単語の末尾に使用されている箇所を調べてみると,ともに6つの単語の末尾に位置していることがわかるのですが,このことから,番号[10]と[12]のマスも E の候補の一つと考えることができることになります。 ところが,[3][10]という並びや[3][12]という並びがいずれも複数箇所に見られることから,番号[3]のマスが A であるとすると番号[10]と[12]のマスはともに E ではないことがわかるのです。

 以上のことから,番号[8]のマスが E で,[3]のマスが A であるという確信がもてそうです。そこで,パズル面のすべての番号[8]のマスに E を記入し,すべての番号[3]のマスに A と記入してみてください。また,チェック欄のそれぞれの番号の Letter のところにも,それぞれ E と A を記入しておきましょう。

◆ 解法(第3段階)
 E と A がわかっただけで,パズル面のおよそ1/4のマスが埋まりました。残りのマスを考えていきましょう。表3に示されているように,英単語の中で e の前後には r が断然多いのですが,パズル面の E の前後に多い番号は何でしょうか。[12]が多いことに気づきませんか? 表1を見てもわかるように,r は子音の中では最も多く使用されているアルファベットの一つになっています。ある程度使用頻度が高くしかも e の前後に多く使用されている文字が r なのです。番号[12]は,この条件を満たしています。
 しかも,[12]を R とすると,パズル面の中央右寄り・横方向に RARE という単語ができ,その下方・縦方向に ARE という単語ができます。以上のことから,番号[12]のマスは R だと判断してよいでしょう。

 先ほどの E と A の場合と同様に,パズル面のすべての番号[12]のマスに R を記入し,チェック欄の番号[12]の Letter のところにも R と記入しておきましよう。

◆ 解法(第4段階)
 「解法(第2段階)」のところで,e の前後には r が多いことを示しましたが,実は,a の直前・直後には r と t が多いことがわかっています。それでは,パズル面の A の直前・直後に多い番号は何でしょうか。番号[5]と[10],そして[12](つまり R )が多いことがわかります。[5]か[10]のマスが T である可能性が高いというわけです。
 仮に番号[5]のマスを T とすると,パズル面の右から4列目・上から1行目の A から始まる縦方向の単語が ATE となります。eat の過去形として ate がありますが,このサイトで紹介する「英語ナンクロ」では,動詞の過去・過去分詞形や名詞の複数形などは基本的には使用しないようにしています(注2)。したがって,[5]のマスは T ではありません。一方,[10]のマスを T とすると,右下角・下から3行目の横方向に AT という単語ができ,左下方面・下から4行目の横方向に TAR という単語ができますから,番号[10]のマスが T だと判断してよさそうです。番号[10]のマスに T を記入してください。

(注2) ただし,was ,were ,has ,did ,does ,could ,should ,would のような,「基本単語」の変化形は使用しています。また,過去分詞の形をしていても,形容詞としての品詞が認められている単語は使用しています。通常複数形で使用される単語は,そのまま複数形で表しています。

◆ 略語は使用しない
 このサイトで紹介する「英語ナンクロ」では,略語や特殊な単語は使用しないことにしています(注3)。「標準的な見出し語」だけを使用することを基本としています。略語を使用するとクロスワードを作りやすい代わりに,ヒントのない「ナンクロ」では解けなくなってしまうからです。略語を使用しなければ,とくに2文字の英単語は,その数が大変少ないことから「英語ナンクロ」を解く際のキーワードになるのです。

(注3) ただし,Dr,Mr,Mrs,Ms,OK,TV などは,「標準的な見出し語」とみなして使用しています。

 そこで,パズル面の下から2行目・右から3列目の,番号[11]のマスから始まる縦方向の2文字単語が何になるかを考えてみてください。略語ではなく標準的な単語とすれば OR,あるいは上の(注3)で示したように DR,MR あたりしかありません。これら3つのうちのどれが当てはまるのかについては,どのように考えればよいのでしょうか。

◆ 母音か子音か
 こういう場合には,番号[11]のマスに入る文字が母音なのか子音なのかを判断することが大変重要になります。そこで,パズル面の左から2列目・下から5行目の[2]のマスを見てください。ここに入る文字は母音でしょうか,それとも子音でしょうか。横方向の文字の並びを見ると,子音が入りそうですね。それでは,ふたたび右下角に目を向けてください。右から2列目・下から2行目の[2]のマスに子音が入るのであれば,その左の[11]のマスには母音が入ると考えられます。
 結局のところ,[11]のマスには O が入って,縦方向には OR となることがわかるでしょう。すべての番号[11]のマスに O を記入してください(チェック欄にも忘れずに)。

◆ 解法(第5段階)
 左から1列目・上から3行目の[7],右から5列目・下から4行目の[7]のマスには,どの文字が入りますか? S が入りそうですね。

 右から3列目・上から1行目の[6],右から2列目・上から2行目と5行目の[6],右から1列目・上から3行目の[6]のマスにはどの文字が入りますか? N が入りそうです。

 [7]のマスが S ,[6]のマスが N だとすると,左から1列目・下から3行目の[4]のマスにはどの文字が入りますか? I になりそうです。

 ここまでくれば,あとは何とかなるでしょう。ぜひともあなたの力で完成させてください。

《例題の正解》

◆ おわりに
 初めはどこから手をつけてよいのか見当もつかなかった「英語ナンクロ」が,いろいろ考えをめぐらすとみごとに解けるのです。これから紹介していく「英語ナンクロ」にはもっと難しいものもありますが,ぜひとも挑戦し続けていただき,「英語ナンクロ」の醍醐味を味わってみてください。
 また,クロスワードが完成したら,パズル面に知らない単語が含まれていないかを調べてみてください。「ナンクロ」は,同じ番号のマスには同じ文字が入るというルールのために,知らない単語があっても自然とクロスワードが完成してしまいます。もし見つかったなら,辞書を使ってその単語の意味や発音・例文などを調べてみましょう。「英語ナンクロ」は完成させること自体が楽しいことなのですが,英語の学習という点から見ても大変有効な手段の一つだと思っています。

 それでは,さっそく第1回出題の「英語ナンクロ」から挑戦してみてください。がんばってね。


《 しのたけさんのお家に戻る 》